イジワル社長は溺愛旦那様!?
「なにかって……全部です」
「ぜんぶ……」
言われている意味がわからずに思わず復唱してしまった夕妃だが、湊は分厚い資料の上に手を置いて、長い指をトントンと神経質そうに動かしたあと、頬杖をついたまま、無言で資料を押し返した。
夕妃が突っ返された資料を胸にスゴスゴと秘書室に戻ると、同僚であり、先輩でもある坪内恭子が、目を見開いた。
「もしかして……?」
「突っ返されました……」
「ああ、やっぱりっ」
夕妃の頑張りを見てわかっているだけに、恭子もまるで自分のことのようにがっくり来ている。
そして『やっぱり』というあたり、これはエールマーケティングの日常の風景なのだ。
恭子はデスクから立ち上がると、後輩である夕妃を励ますように、両手で肩をポンと叩く。
「社長、めっちゃくちゃ厳しいからなぁ……ドンマイ」
「はい……」
夕妃は苦笑しながら、自分のデスクについてパソコンを立ち上げる。