イジワル社長は溺愛旦那様!?

しばらく無言で、湊は夕妃を抱いていた。

まるでここにいると、存在を確かめるみたいに。


「すまない……つまらないことを言ったね」


耳元で湊がため息交じりに自嘲する声が切ない――。

夕妃は両腕を伸ばし、そのまま湊の背中を抱いて、そしてもう一方の手で形のいい後頭部を撫でた。

たぶん――彼は話したがらないが、仕事のプレッシャーだとか、その他諸々を抱えて少し疲れているのだ。

そしていつも他人の前では完璧であろうとする湊は、実際周囲からは完璧にできる男だと思われている。期待され、そのために陰で努力して、また期待され、荷物はどんどん大きくなる。

それはどれだけ大変なことなのだろう。

だから――彼は、夕妃が告白されたと聞いて、ふいにどこかにいくことに――ひとりにされることに不安を覚えたのかもしれない。


(離れたりなんか、しないのに……)


だから夕妃はささやいた。


「大丈夫。ずっとそばにいる」


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