イジワル社長は溺愛旦那様!?
夕妃のマッサージは朝陽で鍛えられていたので、なかなかうまいのだ。
「旦那、あんたかなり凝ってるねぇ……?」
「なんだそのキャラ設定」
湊が夕妃の声色にフフッと笑う。
「あっしはこの道二十年の……流しのマッサージ師でさぁ……」
「流しなのか……ちょっと不安だな」
「おっと、あっしの腕は万年池の亀ですら甲羅を脱いじまうって評判でねぇ……旦那も、あっしに身を任せれば、極楽浄土へまっしぐらでさぁ……」
「マジかよ……」
「マジでさぁ……」
夕妃も適当なことを口にしただけなのだが、だんだん楽しくなってきた。
「ばかばかしいことこの上ないな……」
と言いつつも、クックッと湊が肩を震わせ笑うのをいいことに、夕妃もマッサージをしながら適当な昔話をし始める。
そして流しのマッサージ師のユウが、村を襲う八つの首を持つ恐ろしい蛇をマッサージで眠らせたという、物語が佳境に入ったところで、湊もすうすうと眠っているのに気が付いた。
「……ここからが面白いところなのに」
夕妃はクスッと笑って、湊の背中を撫でると、上から毛布をかけて、自分も隣に横たわる。
「最近、湊さんが先に眠るのを見てばかりだなぁ……」
ここらへんで少し、リフレッシュが必要なのではないだろうか。
夕妃はむくっと起き上がると、ベッドサイドテーブルに置いていたスマホを引き寄せてメッセージを送ることにした。
相手は日本有数の化粧品会社であるエール化粧品の御曹司で、湊のかつての上司であり、そして親友であり幼馴染でもある、不二基(ふじ もとい)、その人である。