イジワル社長は溺愛旦那様!?
立場が違う、見える景色も違う、最初からなにもかも違っている自分と彼は決してずっと一緒にいられるような関係ではない。
だからこれはひと時の夢。
彼を好きでいていいのも、出て行くまでの間だと自分に許して、この一瞬だけの喜びだと割り切って、恋する気持ちに浸ればいい――。
そう自分に言い聞かせて、湊と過ごしてきたはずだった。
だが夕妃は、自分をぬいぐるみのように抱いて、リラックスした様子で眠る湊から目が離せないままで、彼への愛しいと思う気持ちを募らせている。
(もっと私、あきらめのいい女だと思っていたのに……どうしよう。好きって気持ちが消えない。仕舞えない……ぜんぜん、小さくならないよ……)
夕妃は自分に突如芽生えた――いつもの自分ならわがままとしか思えない感情に戸惑っていた。
小さいころから、わがままを言わない子供だった。
自分が我慢してすべてが丸く収まるならと、なんでも飲み込んできた。
だから湊への気持ちもきちんと割り切れると思っていた。
なのにどうしたことだろう。
この期に及んで離れたくないと思うなんて、信じられない。
実際、そんなことを口にすれば、誰よりも恋しく思うこの男に迷惑をかけるというのはわかりきっているのに、一緒にいたいと夕妃の心が叫び、暴れている。
ドクン、ドクンと心臓がまた鼓動を速める。
(駄目だよ……今さらそんなの……絶対に)
夕妃はぎゅっと目を閉じて、そしてそのまま湊の胸に、体を寄せた。
この感情は間違っている。
そう必死に自分に言い聞かせながら――。