イジワル社長は溺愛旦那様!?

差し出された手のひらに自分の手を重ねると、優しく体が引き寄せられる。

そしてそのまま、ぎゅっと抱きしめられた。


「――幸せだって言ったら、笑う? あなたが側にいて、ぬくもりを感じて、目が覚めても夢じゃない……とても幸せだった」


湊の声は慈しみに満ちている。じんわりと優しさが体に広がっていくような気がした。



----・・・



「今日、どうしても昼間でないといけない会合があるので、仕事に行きます」


コーヒーを飲みながら湊が言うのを、夕妃はまじめな顔でうなずいた。


「たぶん帰ってくるのは、夕方になると思います」


(そうしたら――お別れだ)


湊は持っていたカップをテーブルの上に置いて、ソファーの隣に座る夕妃に真剣な顔をして向き合った。


「今日でちょうど一週間ですね」


確かに彼の言うとおり、ちょうど一週間前、この時間――夕妃はホテルでドレスの前に立っていた。

今から結婚式を挙げるとは思えない、暗く沈んだ顔で、豪華なウェディングドレスを眺めていたのだった。
そして朝陽の手によって結婚式を飛び出し、なんの因果か湊の運転する車のボンネットの上に落ちて、こうなっている――。


(たった一週間。だけど人生で一番濃密な一週間だった。この思い出があれば私、強く生きていける――)


そう夕妃が胸の中で反芻していると――。


「……結婚してください」


信じられない言葉が聞こえた――ような気がした。


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