イジワル社長は溺愛旦那様!?

現実、誰よりも紳士的な湊がそんなことをするはずがないとわかっているが――彼にはもしかしたらそういう一面も、あるのかもしれない。


「夕妃……」


湊が夕妃の名を、呼ぶ。

唇が額に触れる。


(これまでずっとさん付けだったのに……)


夕妃の胸が苦しいくらい締め付けられる。


「返事は……?」


夕妃のほっそりした体を抱きしめる湊の腕に力がこもる。
背中を回って肩をつかんだその手は、かすかに震えていた。


(湊さん……)


一週間、あれこれと調べたのなら、自分の複雑な家庭環境だって知られているだろう。

自分たちは、何度かキスをしただけ。
恋人期間はほぼゼロだ。
しかも相変わらず、声は出ないときてる。

そんな面倒くさい自分を守るために、湊は自分が家族になるという。

夕妃の背景ごと、彼はぜんぶ丸ごと引き受けると言っているのだ。

そんな湊の決断を、夕妃は信じられない思いで見つめ、震えていた。


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