イジワル社長は溺愛旦那様!?
これが車に押し込もうとか、そういう事態だったら、夕妃も強く拒んでいたはずだ。
けれど人目のあるあそこで話をしようと言われると、考える。
少しくらい話をしてもいいかもしれない。
どうしても、もう関係ないと、この場から走って逃げる気にはなれなかった。
夕妃は腕を引いて、門脇を見上げる。
「――わかりました」
動悸はおさまっていた。
夕妃は小さくうなずいた。
急いで秘書室に戻りPCの電源を落とす。
「恭子さん、お疲れ様です」
「お疲れ様~また明日ね~」
ひらひらと手を振る恭子に会釈して、夕妃は固い表情のまま、門脇が待っているはずのコーヒーショップへと向かった。
コーヒーショップはそれなりの人数でにぎわっていた。ブレンドを買い、それから周囲を見回すと、門脇がひとりで、喫煙コーナーで煙草を吸いながら待っていた。
「お待たせしました」
小さなふたり用の丸テーブルで、のんびりとした様子で椅子に座っている門脇の前に腰を下ろす。
「いえ。よかった、来てくれて」
どうも来ないと思っていたらしい。
門脇はふっと笑って、煙草を灰皿に押し付けて火を消した。