イジワル社長は溺愛旦那様!?
門脇はあはは、と笑って、吸っていたたばこの火を灰皿に落とす。
「桜庭さん、日本に帰ってきてるんですよ」
「……いま、ですか」
「ええ。明後日にはまた中国に戻りますけど」
自分が逃げた後、桜庭麻尋は中国に行った。
そして今、帰国している。日本にいる……。
そもそもあのあと彼がどこでなにをしているかなんて、誰も夕妃の耳に入れなかったし、夕妃もわざわざ聞こうとはしなかった。
最近も、過去のことを折に触れて思い出し、桜庭のことを思い出しては苦しくなったり、湊の思いやりに嬉しくなったりしたけれど、それはあくまでも自分のことで、桜庭自身に向き合ったわけではない。
自分では克服したつもりでも、思い出すのが怖かったというのもある。
だからずっと心のどこかで引っ掛かっていたのだ。
「わかりました。会います」
「……本当に?」
驚いたように門脇が目を丸くする。
まさか夕妃がオーケーするとは思っていなかったような態度だ。
「はい。桜庭さんに直接会って、お話します。明日ですよね。ただ、まず今日のこと、夫にも……相談しますから」
「もちろんです」
門脇はビジネスバッグからペンを取り出して、テーブルの上のペーパーナプキンに携帯番号を書きつける。
「決心がつき次第、ご連絡ください」