イジワル社長は溺愛旦那様!?

「っ……!」


湊の大声に、夕妃は雷に打たれたように震えた。


「ああいう男は、たった一言で、人を簡単に叩きのめすことができるんだ! 生きている人間に呪いをかけて、苦しめることができるんだ! 閑がそこにいたところで、取り返しのつかないことになったらどうするんだ!」


普段は桜庭のことを忘れていても、門脇に声を掛けられ、桜庭の話をほのめかされただけで、夕妃は卒倒しそうになった。

湊の言うとおり、桜庭に会って傷つけられないか、と問われれば自信はない。

だが今回はいきなり会うわけじゃない。
自分が会うと決めて、会うのだ。心の準備ができるはずだ。


「それはそうだけどっ……でもっ……」


そのことを言いたいが、なかなか言葉が出ない。


「でもじゃない!」


そして湊は、自身のきれいに整えられていた髪をぐしゃぐしゃとかき回す。


「それで夕妃だって、声が出なくなったじゃないか! もう忘れたのかっ!?」
「忘れてなんか――」


忘れてなんかいない。いるはずがない。

夕妃は胸をつまらせながら、首を振る。


「どうして今さらあの男に会いたいなんて言うんだ!?」
「だからそれはっ……」
「傷つけられることがわかって、それでも会いたいのか!」
「みなとさ……――」


矢継ぎ早に言い放つ湊に、夕妃は言い返せない。


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