イジワル社長は溺愛旦那様!?

元々それほど弁が立つわけではないのだ。
しかも湊の言うことは、正しいのだから。


(でも……でも……それでも私……)


胸がぎゅうぎゅうと締め付けられる。

自分は、桜庭を愛してもいないのに、お金目当てで、彼と結婚しようとした女だ。そしてあろうことか、結婚式当日に逃げたのだ。

確かに実行に移したのは朝陽だが、結局自分がそうさせたも同然で……。
結果、社会的信用を欲しがっていたはずの桜庭に、逆に相当な損害を与えてしまった。

そして自分はと言えば、湊や朝陽、閑に支えてもらい、なんとか遠回りしながらも回復して、日々、幸せな生活を送っているのだ。

だからこそ、【自分だけ幸せになっていいんですか】という門脇の言葉が頭から離れない。

なんとか桜庭に向き合わなければならない。
突然ではあるがその機会が訪れようとしているのだ。

大人として責任をとるときがきたのだと、そのことをなんとか湊にわかってもらいたかった。


「私、どうしても、あの人に会わないといけないって、思うのっ……わたしっ……」


だが、心を絞り出すように、必死に“会わなければいけない”と言う夕妃を見て、湊は感情をいよいよ抑えきれなくなったのか、眉を吊り上げ、夕妃を見下ろした。


「ああ、そうか。一度は結婚しようと思った男だもんな、そんなに会いたいのかよ、俺の気持ちなんかどうでもいいってことか、恩を仇で返すとはこういうことだな!」


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