イジワル社長は溺愛旦那様!?

その言葉に、夕妃はガツンと頭を殴られたような気がした。


(湊さん、どうして……)


呆然と顔をあげると、

「あっ……」

しまったという表情の湊と目が合った。


「みなと、さ……」


あっという間に視界がにじんだ。湊が見えなくなる。ここで泣くのは駄目だとわかっているが、止められなかった。


「夕妃っ……」


湊が慌てたように手を伸ばしてきたが、肩に触れたその手を振り払った。
手の甲で頬を伝う涙をぬぐいながら、ベッドから降りる。


【恩を仇で返す】


(違う……違う!)


そんなこと、湊は一度だって思ったはずがない。
そんなことを考えるような男ではない。

彼を苛立たせ、心にもないことを言わせたのは自分だ。


「ごめんなさい……」


誰よりも優しい湊に、こんなことを言わせてしまった。
夕妃の胸のうちに激しい自己嫌悪が渦巻く。


「違う、謝るのは俺だ、俺が悪かった……夕妃!」


寝室から出て行こうとする夕妃を慌てて追いかけて、湊はぽたぽたと涙をこぼす夕妃の前に回り込んだ。
だが夕妃はその湊の胸を押し返して、寝室を出る。


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