イジワル社長は溺愛旦那様!?
きっとこのまま話をしても平行線でしかない。
自分の決めたことは湊を苛立たせるし、傷つけてしまう。
こんなことで、大事な人を傷つけるなんて本末転倒だ。
(どうして、うまく伝えられないんだろう……どうやったら……)
夕妃は自分の部屋に入って、ボストンバッグに明日の着替えを適当に詰め込み、着ていたルームウェアの上にロングコートを羽織った。
部屋を出ると同時に、廊下に立っていた湊が駆け寄ってきた。
「どこに行くんだ……!」
「会社の近くのホテルに泊まるから……」
「待ってくれ、夕妃、さっきのは本当に俺が悪かった、ひどいことを言った、最低だった、本当に、俺ってやつは……」
湊は打ちひしがれたように片手で額を覆い、首を振る。
「俺の顔を見たくないなら、俺が出て行くよ……。夕妃が出て行く必要なんてない」
「違うの……私もちょっと頭を冷やしたいから……湊さんが悪いんじゃない。湊さんは全然悪くない……ごめんなさい……明日はホテルから仕事に行くから」
夕妃はうつむいたままそう早口で言うと、そのまま玄関へと向かった。
エレベーターを降りて、スマホでタクシーを呼ぶ。
それから、エールマーケティングからほど近いホテルをいくつかwebサイトで空き部屋状況をチェックし、空いているところをスマホで予約した。