イジワル社長は溺愛旦那様!?
ふたりの住むマンションにはコンシェルジュもいて、タクシーを呼んだり、ホテルをとってくれたりなど、二十四時間対応しているのだが、なじみの彼らに泣いた顔を見られるのも気まずかった。
やってきたタクシーに体を滑り込ませて、ホテルの名前を告げる。
シートに背中を押し付けると、どっと疲れが押し寄せてきた。
(明日……どうしよう……)
翌朝。
「おはようございますー……」
腫れた目をなんとか冷やして出勤すると、先に来ていたらしい恭子が、ピョーン!と椅子から跳ねるように立ち上がった。
「ちょっ、夕妃ちゃん、メール見なかったっ!?」
「メール? すみません、朝イチはチェックしましたけど……」
バッグからスマホを取り出すと、恭子から確かにメールと着信が残っていた。
「なにかあったんですか?」
恭子は職場でゆっくりとメイクをするのが習慣なのでいいとして、時計を見ると、まだ八時過ぎである。業務上の問題があったとは思えないのだが。
すると恭子はひどく興奮した様子で、コートを脱ぐ夕妃のもとに駆け寄った。
「エール化粧品の、専務が来てるっ!」
「エール化粧品の専務……って、もっ……不二、さんっ!?」
危うく基さんと叫ぶところだったのを必死で抑え込む。