イジワル社長は溺愛旦那様!?

そしてわざとらしく手の甲を口元にあてて高笑いする。


(私だって一応人妻なんですけどー! そして基さんは緊張するんですけどー!)


と思ったが、仕方ない。


「わかりました」


夕妃はしっかりとうなずいて、深呼吸すると給湯室へと向かった。




「失礼します……」


お茶の入った盆を片手にドアを開けると、いつもは神尾が座っているはずの社長室の椅子に、足を組んで座る基の姿があった。

濃いブルーの三つ揃えに臙脂色のネクタイ。ピカピカに磨かれた茶色の靴が外からの光を反射してまぶしい。

彫りの深い顔立ちに、少し波打つ髪、その奥に潜むグレーがかった瞳は、日本人離れしているが、それもそのはず、彼の母親はもともと売れっ子のハーフモデルであり、彼自身クォーターだ。

彼こそが、日本有数の化粧品会社、エール化粧品の御曹司であり、専務取締役の不二基である。いつどこで見ても、美の神様が誠心誠意、心を込めて作り上げたような、精悍で美しい男だった。


「おはよう」


基が社長室の入り口に立ち尽くしている夕妃を見て、優雅に微笑む。


「お、おはようございますっ……!」


夕妃は緊張しながら彼の座るデスクに向かい、テーブルの上に、

「どうぞ」

とお茶を置いた。


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