イジワル社長は溺愛旦那様!?
「ありがとう。わざわざすまないね」
基は紳士的な態度で茶碗を持ち上げ、ひとくち、優雅にお茶に口をつけた。
(よし、ミッションクリア!)
お茶一つを運ぶのにものすごく緊張してしまったが、この不二基という男は、物腰は優雅でも、なぜか他人に緊張を強いるような圧倒的オーラがあるのだ。
(生まれながらの王様って感じだもんね……)
夕妃は、そんなことを思いながら、「では失礼します」と退出しようとしたのだが――。
「待て」
「はっ、はい!」
まるで犬が飼い主に“待て”と言われたかのように、夕妃はその場に、お盆を抱えてピンと背筋を伸ばして立つ。
すると基はそんな様子の夕妃を見て苦笑し、椅子についていた頬杖をやめて、ちょいちょい、と指で手招きした。
「そう、構えるな。今日はエール化粧品の専務としてじゃない、神尾湊の友人として来たんだ」
「友人として……?」
「ああ」
そして基は椅子を立つと、社長室の応接セットのソファーに腰を下ろした。
「まぁ、座れよ」
「……はい」
本社の専務ではなく、親友の立場からにそう言われれば仕方ない。
緊張しながら、基の前に、ローテーブルを挟んで、夕妃も腰を下ろした。