イジワル社長は溺愛旦那様!?
「猫じゃなくて……ごめんなさいっ!」
そして夕妃は、勢いよく頭を下げる。
「ま、ま、ま、マジかよ~~!」
それを聞いて、澄川は漫画のようにヨロヨロとよろめいた。
「マジなんです。でも会社にも隠してて……だから言えなくて。本当にごめんなさいっ!」
さすがに湊のことは話せないが、これができる精いっぱいの返事だった。
「そっかぁ……いや、いいんだよ。なんていうか、逆にこれ気を使わせてごめんねって感じだし。みんなに内緒にしているようなプライベートのこと、話させてごめんね」
澄川はアハハと笑いながら、首の後ろをくしゃくしゃをかき回した。
「でも、ありがとうね」
「そんな、ありがとうなんて……」
「いや、ありがとうだよ。これで完全に見込みがなくなったわけだけど、やっぱり三谷さんのこと好きになってよかったって思ったよ」
澄川はさっぱりとそう言うと、
「じゃあまた明日!」
とさわやかに笑ってきびすを返す。
「はい、また明日!」
夕妃は澄川に手を振ったあと、その手をぎゅっと胸の前で握った。
澄川の背中はあっという間に見えなくなったが、夕妃は東京の雑踏の中に消えた彼の言葉を、心の中で反芻していた。