イジワル社長は溺愛旦那様!?
閑は同席しようかと申し出てくれたのだが、夕妃はそれを断り、部屋の外にいてほしいと伝えたのだ。
「じゃあ」
閑は夕妃がうなずくのを見て、ドアノブを引く。
夕妃は大きく息を吸い込んで応接間の中に一歩足を踏み入れた。
「――ひさしぶり」
桜庭麻尋が、応接セットの奥側に、身を屈めるようにして座っていた。夕妃が入ってくると、顔だけを挙げ、頭の先からつま先まで、じっくりと眺める。
蛇に睨まれた蛙というのはこういう気分なのだろう。
夕妃は一瞬目を逸らしたくなったが、唇をかみしめて見つめ返す。
彼はオフらしい。スーツではなく、デニムのジャケットとシャツに細身のパンツ姿にレザースニーカーという、カジュアルな装いだ。
半年ぶりではあるが、若干髪が短くなっているだけで、なにもかわらない。
「お久しぶりです」
夕妃は小さくうなずいた。
「まぁ、立ち話もなんだし、座りなよ」
「はい」
夕妃は緊張した足取りで、彼とローテーブルを挟んだ正面、入り口側のソファーに腰を下ろした。