イジワル社長は溺愛旦那様!?

「かもしれないね」


その目はキラキラと輝いていて――。

それを見て夕妃は、ああ、そうなんだと、急に、自分を包んでいた靄が消え、目の前の景色が変わったような気がした。

(桜庭さん……)


夕妃は一度こぶしを握り、膝の上の手をじっと見つめた。
脳内に、自然と湊の顔が浮かんだ。


『夕妃』


湊が名前を呼ぶ。
手を伸ばして、髪を撫でて、頬を撫でる。
とても大事だと、何度も告げる――。


「私、土下座なんかしません」


次の瞬間、夕妃は顔を上げ、桜庭の顔を真正面から見つめた。


「――へ?」


予想外だったのか、桜庭の目が丸くなる。


「私がやってしまったことに対して、心から謝罪します。でも、土下座はしません。土下座しないと許さないと言うなら、許さなくていいです」
「なんで……」
「なんでって……私が土下座なんかしたら、悲しむ人がいるから。傷ついて立ち直れなかった私を、大事に慈しんでくれた人に、申し訳が立たないから……」


そして夕妃はソファーから立ち上がって、頭を下げた。


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