イジワル社長は溺愛旦那様!?

「っ、なんだよっ!」


ガシャン!!

大きな音がした。

桜庭がローテーブルを蹴り上げたのだ。

それなりに重いテーブルが斜めに動くほど、その衝撃は強かった。

それに合わせて、一瞬背後で誰かが動く気配がした。
様子を見ていた閑だろう。


「大丈夫です」


そう思った夕妃は、後ろに向かって手を向けながら、なおも桜庭を見上げる。

武者震いなのかなんなのか、体はガタガタと震え始めていた。

もう怖いとかそんな感覚は吹っ飛んでいて、ただ夕妃は必死だった。


「桜庭さん、もっと自分を大事にして……! わざと毒をまき散らさないで! そんなふうに生きていたら、いつかきっと自分の毒で死んじゃうんだから! そんなの、やめて!」


そして一気に、息を吐く。


「――お願いだから、もっと自分のことを、大事にして……じゃないと誰も、あなたを大事にできないんだから……」


しん、と場が静まり返る。

桜庭はうつむいたまま、立ち尽くしていたが、やがてぽつりと、口を開いた。



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