イジワル社長は溺愛旦那様!?

「俺、もう少しあんたと……もう少し……」
「え?」


桜庭が夕妃に向かって手を伸ばす。その次の瞬間、

「もういいだろう」

後から手が伸びてきて、桜庭の手首をつかんだ。

ハッとして振り返ると、夕妃を後ろから支えるように、なんとスーツ姿の湊が立っていた。


いつからそこにいたのだろう。
そしてなにを聞いていたのだろう。

驚いて夕妃は、目を大きく見開いた。


「うそ、えっ、湊さ……んんっ?」


湊は右手で桜庭の手首をつかんだまま、もう一方の手で夕妃の肩を抱き、そして彼の胸に夕妃を引き寄せたのだ。
彼の胸に顔が押し付けられて、何も見えなくなった。


「――桜庭麻尋」


間髪入れず、湊の低い声が、押し付けられた体の中から響いてくる。


「いいか。俺は夕妃ほど人間ができていない。性格も悪い。だからお前のしたことを絶対に忘れない。執念深く、覚えている。だが……夕妃のためにも、ここではないどこかで、勝手に幸せになれ。わかったか」


そして桜庭をつかんでいた手を乱暴に離す気配がした。


「おーこわ……ははっ……手首赤くなってるし……ナイトきどりかよ」


桜庭の渇いた笑い声が聞こえる。顔を挙げようとすると、動くなと言わんばかりに、肩をつかむ湊の手に力がこもる。



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