イジワル社長は溺愛旦那様!?
ふと、思い出す。
湊と初めて出会ったあの日。
あの日、夕妃は生まれて初めて、人生を投げ出そうとしていた。
心のどこかでおかしいと思いながらも、『いや、これでいいんだ』と思い込もうとしていた。朝陽の気持ちも考えず、勝手に、これで自分以外のみんなが幸せになれるはずだと願っていた。
けれどそれは最愛の弟を深く傷つける行為でもあって――。
流されて、迷いながらも結局、夕妃は敷かれたレールから飛び降り、回れ右で違う道を走り出したのだ。
そして湊に恋をして、恋人期間ほぼゼロのまま、結婚し、今に至るわけで。
(人生はいいことも悪いことも、半分)
「――夕妃?」
湊が黙り込んだ夕妃のあごのラインを指で撫でて、持ち上げる。
そして親指で、優しく下唇の上をなぞる。
「なにか不安なことがあるのか」
「ううん。ないよ」
「本当に?」
「……」
「どんなことでも、我慢しなくていい。不安は口にしていいし、俺にすべてぶつけてくれていい。そのために結婚したんだろう」