イジワル社長は溺愛旦那様!?
「失礼ですが、笑うあなたがかわいらしく見えて、つい私も声を掛けてしまいました」
(かっ……かわいらしいって……)
朝早い空港のラウンジで、赤の他人にかわいいと言われるとは思わなかった。
自分に自信がある男は、こういう状況でリップサービスを厭わない傾向がある。
湊もそうだし、湊の親友である不二基もそうだ。
(開業医、弁護士……いやコンサル……かな)
「お仕事ですか?」
「――はい」
夕妃はうなずきながら湊のほうに視線を向ける。
この状況に助けを呼ぶほど困っているわけではない。向こうからしてもただの世間話だろう。だがとりあえず女一人ではないという意思表示のつもりだった。
そして湊は、スマホを耳に押し当てて、誰かと電話で話しているようだ。
「ボスの出張に同行しています」
そう答えると、彼もまた夕妃の目線を追って湊を見つけた。
「そうなんですね」
かすかに思案顔になったのは、湊の顔に見覚えがあるからだろうか。
だがすぐににっこりと笑って腕時計に目を落とし、
「ではまたどこかで」
とソファーから立ち上がりラウンジを出て行った。