イジワル社長は溺愛旦那様!?

さすがの朝陽も耳は鍛えられない。


「うわっ!?」

驚いたように身をのけぞらせ、加速をゆるめた。

するとそれまで全力疾走していたせいか、夕妃の体だけが前へと移動して、朝陽の手を離れ、ふわりと浮いた。


「あっ……!」
「きゃあっ!」


朝陽と夕妃が悲鳴を上げる。

ちょうどそこは横断歩道の直前で――。


道路に向かって背中から投げ出されながら、夕妃はすぐ目の前に差し迫った車の運転手と、目が合った。

ハンドルを握ったまま、眼鏡をかけた知的な雰囲気のサラリーマンが、大きく目を見開いて、なにかを叫ぶ。


(……ああ、ごめんなさい。あなたに轢かせるつもりはなかったのだけど……ごめんなさい……)


事故にあうときはすべてがスローモーションに見えるというのは本当なんだな、と、そんなことを思いながら、夕妃はそのままぷっつりと意識を失っていた。




< 60 / 361 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop