イジワル社長は溺愛旦那様!?
さすがの朝陽も耳は鍛えられない。
「うわっ!?」
驚いたように身をのけぞらせ、加速をゆるめた。
するとそれまで全力疾走していたせいか、夕妃の体だけが前へと移動して、朝陽の手を離れ、ふわりと浮いた。
「あっ……!」
「きゃあっ!」
朝陽と夕妃が悲鳴を上げる。
ちょうどそこは横断歩道の直前で――。
道路に向かって背中から投げ出されながら、夕妃はすぐ目の前に差し迫った車の運転手と、目が合った。
ハンドルを握ったまま、眼鏡をかけた知的な雰囲気のサラリーマンが、大きく目を見開いて、なにかを叫ぶ。
(……ああ、ごめんなさい。あなたに轢かせるつもりはなかったのだけど……ごめんなさい……)
事故にあうときはすべてがスローモーションに見えるというのは本当なんだな、と、そんなことを思いながら、夕妃はそのままぷっつりと意識を失っていた。