イジワル社長は溺愛旦那様!?
慰めすら口にできない自分に夕妃もまた自然と落ち込んでしまう。
当然、どんよりと診察室に暗い空気が流れる。
「――明日から治療を開始しましょう。治らない病気ではありません。焦りは禁物です」
「はい……」
優しげな女医の言葉に朝陽はうなずき、そして膝の上の夕妃の手を握り返した。
診察室を出ると、ドアの目の前に青の三つ揃え姿の男性が、壁にもたれるように腕を組み立っていた。
年は三十くらいだろうか。夕妃の同世代の男性より、ずっと落ち着いた雰囲気がある。
朝陽ほどではないが、百八十を超える長身で、手足はすらりと長く、サラサラの黒髪でハッとするほど端整な顔立ちをしているが、それをわざと隠すようにシルバーのフレームの眼鏡をかけていた。
夕妃は一瞬、素敵なひとだな、と他人事のように見とれかけて、次の瞬間、ハッとしたように思い出していた。
(この人、車の運転手だ! 謝らなくちゃ、だって、私のせいで、この人はきっと大変なことに巻き込まれてしまったんだから!)
検査や診察の流れで朝陽から聞いたのだが、朝陽に担がれていた夕妃はなんと彼の運転する車のボンネットの上に落ちたらしい。
そして横断歩道の直前でほぼ徐行だったことが幸いしたらしく、夕妃はアスファルトで頭を打つこともなく、怪我ひとつしなかった。
彼のおかげで大事故にならなくて済んだのだ。