イジワル社長は溺愛旦那様!?
だが一応事故は事故ということで、運転手の彼が警察を呼び、救急車を呼び、おそらくショックで気を失ってしまった夕妃を知り合いの病院に連れてきてくれたのだとか。
(なにもかも自分が悪い……)
夕妃は泣きたい気分になりながらも、慌てて彼の前に出て、頭を下げていた。
ご迷惑をかけて申し訳ございません――。
そういうつもりだった。
だが夕妃の唇から漏れるのは、
「あっ……う……っ……」
というひっかかった声だけで。
(あ、そうだ。声、出ないんだった……)
落ち込みながら、顔を上げると、彼は眼鏡の向こうの切れ長の目をかすかに見開いて、組んでいた腕をほどき、いたわるように夕妃の肩に手を乗せた。
「話はまた明日にしましょう。ここは私の親族が経営する病院ですから、安心してやすんでください」
そして通りがかりの看護師に夕妃を部屋まで送るように声を掛けた。
「それと、弟さんと少し話をさせてください」
(え……?)
まさか訴訟だなんだという話になるのではないかと、夕妃は怯えたが、朝陽が
「大丈夫だよ、姉ちゃん。事故の時の話の続きをするだけだから」
と、励ますように笑顔をうかべた。