イジワル社長は溺愛旦那様!?

(おいしい……)


ようやく美味しいという気持ちを感じられてホッとしたと同時に、夕妃はその瞬間、ぐっと喉が詰まるのを感じた。

りんごが美味しいのに、声が出ない。
目の前の親切な人に、ごめんなさいも言えない。
自分ではよかれと思って選んだはずなのに、こんなことになっている。


「……うっ……」


喉がけいれんする。
息が通らない。


「ひっ……」


(だめだ、ここで泣いちゃ。だめ、だめ……!)


焦れば焦るほど、目の前の視界がにじんでいく。
涙があふれてくる。

慌ててリンゴを皿の上に戻し、両手で顔を隠そうとしたのだが――。

気が付けば、その手を止められていた。


(え……?)


自分の両手が、神尾の片手でやすやすとまとめて掴まれている。


(え、なんで? どうして……)


これでは涙がふけない。
ぽろぽろと泣きながら、夕妃は呆然と神尾を見つめ返す。


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