イジワル社長は溺愛旦那様!?
「そして私も、身の丈の範囲で、あなたたち姉弟を助けると言っているだけです。このまま放りだすなんて、ありえません」
神尾は笑顔のままそう言うと、椅子から立ち上がって夕妃を見下ろした。
そして見下ろされた側の夕妃は、ポカンと、半分キツネにつままれたような気分になりながら、神尾を見上げる。
(変わった人……)
そう思いながらも、神尾はどこからどう見ても、完璧なエリートで、だから自分とは違う世界にいる人だとわかっているのに、妙に心がざわめく。
引力のようなものを感じてしまう。
(馬鹿ね、私……疲れてるんだ)
彼との間にあるのは、ただの“責任”だ。
そして彼にはその力がある。
全く気が引けないわけではないが、相談に乗ってもらうのもいいかもしれない。
夕妃はメモに丁寧に文字を書いた。
【わかりました。ありがとうございます。お世話になります】
そしてまじめな顔をして頭を下げた。
一方神尾は、上半身を屈めてメモに目を通し、軽くうなずいたあと、それからなぜか夕妃に顔を近づけてきて――。
(え、あの……近い?)
首をかしげると同時に、頬に近づいてきた神尾の唇が押し付けられる。
(――へ?)
一瞬なにをされたかわからなかった。