イジワル社長は溺愛旦那様!?
夕妃はマンションの裏手にある大きな公園に来ていた。
ウォーキングコースがあるので、平日の昼日中とはいえ、ベビーカーを押している母親や、引退して老後を楽しんでいる仲のよさそうな夫婦の姿がいくつもあった。
その中に混じって、夕妃はため息をつきつつウォーキングコースを歩く。
(とりあえず……一週間あると言っても、このまま逃げ切れるはずがない。考えなきゃ……どうしたら朝陽くんを幸せに、苦労させられずに生きられるか……)
夕妃にとって朝陽は生きがいだった。たとえ百九十センチもあって姉を米俵のように担げると言っても、弟は未成年だ。親が頼りになれば、本来守られる存在なのだ。
苦労は買ってでもしろと世間では言われるが、夕妃はそうは思わない。
苦労なんてしないにこしたことはないと思っている。
(でもどうやったら……? うう、まったく思いつかないよ……はぁ……)
悩みながら歩き続けていると、急に息が上がってきた。
夕妃は仕方なく歩くのをやめ、少し離れたところにポツンと置いてあるベンチに腰を下ろすことにした。
ぼーっと空を見上げる。
このあたりは高級住宅地で、緑ビルが立ち並ぶ都心とそう離れていないはずなのだが、空の青が占める分量がとても多い。
(みんな誰もが同じ空の下で平等なんて、嘘だ。見える景色が全然違う……)
ふと、自然に神尾のことを考えていた。