イジワル社長は溺愛旦那様!?
(あの人は、こういう空の下に生まれてきた人なんだろうな……私とは全然違う)
その時――。
「夕妃さん……!」
公園の入り口がある方向から、誰かが走ってくるのが見えた。
一瞬身構えたが、すぐにわかった。神尾だ。
「ここにいたんですね……朝陽くんが、出て行ったというから驚いてしまいました」
(あ……確かにそうだ。一言言っておけばよかった)
ただひとりになりたかっただけだ。神尾を驚かせるつもりはなかったので、夕妃は申し訳なく思い、ぺこっと頭を下げる。
そしてジャケットのポケットに手を入れかけたが、メモを部屋に置いてきたことを思い出して、ボールペンを握りしめたままうなだれた。
「ああ、メモ忘れたんですね」
神尾はにっこりと笑って夕妃の左隣に腰を下ろすと、右手を差し出した。
「ここに書いてください」
(えっ……!)
神尾の手のひらは大きく、指は長くてきれいだった。
そんな彼の手にボールペンで文字を書くなんてできるはずがない。しかも水性ではない、ごく普通のボールペンだ。
夕妃は慌てて自分の左手に文字を書いて、隣の神尾に見せる。
【少し外の空気を吸いたくて】