イジワル社長は溺愛旦那様!?

(あの人は、こういう空の下に生まれてきた人なんだろうな……私とは全然違う)


その時――。

「夕妃さん……!」

公園の入り口がある方向から、誰かが走ってくるのが見えた。

一瞬身構えたが、すぐにわかった。神尾だ。


「ここにいたんですね……朝陽くんが、出て行ったというから驚いてしまいました」


(あ……確かにそうだ。一言言っておけばよかった)


ただひとりになりたかっただけだ。神尾を驚かせるつもりはなかったので、夕妃は申し訳なく思い、ぺこっと頭を下げる。
そしてジャケットのポケットに手を入れかけたが、メモを部屋に置いてきたことを思い出して、ボールペンを握りしめたままうなだれた。


「ああ、メモ忘れたんですね」


神尾はにっこりと笑って夕妃の左隣に腰を下ろすと、右手を差し出した。


「ここに書いてください」


(えっ……!)


神尾の手のひらは大きく、指は長くてきれいだった。
そんな彼の手にボールペンで文字を書くなんてできるはずがない。しかも水性ではない、ごく普通のボールペンだ。

夕妃は慌てて自分の左手に文字を書いて、隣の神尾に見せる。


【少し外の空気を吸いたくて】



< 89 / 361 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop