イジワル社長は溺愛旦那様!?
ごく自然に、そんなことを考えていて――。
(な、なに考えているの、私ったら図々しいっ!)
相手にされるもなにも、すでに十分構ってもらっているではないか。
これ以上なにを求めるというのか。
なんにしろ、贅沢にもほどがある。
夕妃は慌てて、頭を振る。
ジャバジャバとお湯で顔を洗い、大きなバスタブの縁に頭を乗せて、ぼんやりと天井を見上げていた。
それからおそるおそる、口を広げる。
「あ……う……」
喉が緊張で締まる。苦しそうで小さな声しか出なかった。
やはり声は出ないようだ。
(私、これからいったいどうしたらいいんだろう……宙ぶらりんでいることが、こんなに怖くてたまらないなんて……)
夕妃は深いため息を吐き、そのまま目を閉じていた。
「――さん、夕妃さん?」
遠くから男性の声が響く。
(ん……だれ……朝陽くん……?)
だが朝陽は“夕妃さん”なんてかしこまった雰囲気で名前を読んだりはしない。
では誰だろう……。
自分は夢を見ているのだろうか……。