【完】八月は、きみのかくしごと
『死んだら娘に会えないっていうのに、娘に冷たくするなんてひどいよね。今はまだ、母親なのにさ』
口うるさい母さん。冷たい母さんに鬱憤が溜まっていた。
ついにそれが爆発したわたしは母さんのことをそう言ったのだ。
そのとき、わたしは生まれて初めてお父さんに頬を叩かれた。手加減なんか一切なかった。
目を真っ赤にしたお父さんは悔しそうに涙を流しながら震えていた。
叩かれた頬よりも、心が痛かった。
わたし以上に、お父さんの方がきっとよっぽど痛かったと思う。
鮮明に蘇る記憶にざわざわと心臓が揺れる。
過去が変わることがないのなら、きっと今日の夜、それは起きる。
「夏希、昼飯は食べてから出るのかい? どうする?」
穏やかなお父さんの声に夢から覚めたように顔を上げた。
「……あ、うん」
「まぁ、そーめんなんだけどな」
「じゃあ、わたし……鍋にお湯沸かしてくるよ」
お父さんの顔を見れなくて和室を出た。
台所に立って鍋を取る。
火をつけ、準備をしても、なかなか落ち着かない。