【完】八月は、きみのかくしごと
「……ん。久しぶり」
そんな久しぶりじゃないけど、とりあえず言ってみる。
「こっち来いよ。遠いだろ」
わたしが目を逸らしたからか、わたしの声が聞き取れないのか、陸は手招きする。
渋々空き地へと入ると、真ん中にどかんと座ってあぐらをかいた陸は、サッカーボールをころころとで手で遊ばせた。
「……またサッカー始めるんだね。奏多から聞いたよ」
言いながらわたしも陸の隣にしゃがんだ。
「ああ。やっぱり、諦めたくねぇしな」
もうそんなことを言えるようになったのか、とわたしは関心した。と、同時にそれって奏多のおかげなのかな、と改めて思う。
もちろん決意したのは陸本人だけど。
「試合、出るんでしょ? すごいじゃん」
「ははっ。まだ決まったわけじゃないけどな」
ぎこちない笑みだった。
前の陸なら当たり前って顔をしていたのに。
でも陸の瞳の奥には静かなる闘志が燃えていた。
「試合は秋なんでしょ? なら、まだ時間あるじゃん」
「そうか? 全然ないだろ。秋なんてすぐだし」
自分に言い聞かせるような声だった。
そうだよね。時間はあっという間に過ぎていく。
奏多もだけど、陸もそのことをわかっているのだろう。
陸には秋の足音が聞こえているのかもしれない。
「きっと陸なら大丈夫だよ……試合、出れるよ」
自然と言葉になった。
いつだって、サッカーへ情熱を注いでいるもん。
好きなことを好きだってちゃんと言ってるし、こうやって行動してる。