【完】八月は、きみのかくしごと


 「逃げてるのは俺の方だったのに、ごめんな……」

 謝罪の言葉を口にした陸にわたしは首を振った。

 「陸の言う通りなんだよね」

 「なにが?」

 「わたしってホントに明日明日って後回しにするから。あのときは正直ムカついたよ。なにから逃げてるって言うわけってね……」

 「いや、俺もサッカーからも親父からも逃げてきたよ。自分からもさ」

 ポツリと言った陸の言葉にわたしは相槌を打つ。

 「逃げるのは簡単だよね」

 「ああ。けどさ、いつまでも誤魔化せないんだよな」

 身に染みたような口調だった。

 
 逃げ続けるのは簡単だ。

 例えば母さんのこと。

 思い出に傷つけられたくないから思い出さないようにする。 

 それなのに日に日に痛みは増していくのはどうしてかな。

 「今まで自分じゃ気づかなかったんだけど、夏休みもあと半分だし……時間って、思ったより過ぎるの早いね」

 当たり前にやってくる明日がわたしには保証されていない。

 ううん。きっとみんなそう。

 生きている以上、絶対なんてないのかもしれない。


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