【完】八月は、きみのかくしごと
「そうなの? てっきりもう捕まったかと思ってたよ。影森駅で目撃情報があったみたいだから、気を付けてって凛子が」
「マジか。それは怖ぇな」
「でも、もう遠くに逃げてるんじゃないかな」
わたしが犯人ならそうする。
捕まりたくないから遠くへいく。
「しかもその犯人、前歯がないらしいよ」
滑稽な犯人の顔を想像してわたしは久しぶりに笑った気がする。
でも、そんなどうでもいいことで笑っていたのはわたしだけだっただろう。
「……あ。わたし、そろそろ行くね」
奏多はもう御門屋に着いている頃かもしれない。
立ち上がると太陽かぐんと近くなる。
そっと踵を返すわたしに、
「夏希!」
慌ててひき止める陸の声が背中に飛んできた。
「奏多の計画書、最後まで付き合ってやれよ。俺はサッカーの練習で付き合ってやれねぇからさ」
「わかってるよ。今日もこれから奏多と会うの」
「そうか。よかった……」
言葉とは裏腹に項垂れるようにして足元のサッカーボールを拾い上げた。
「試合、頑張ってね」
わたしは見に行けないかもしれない。
だから、今ここからエールを送る。
頑張れ、陸。