【完】八月は、きみのかくしごと


 「今の段階ではわからんな」

 「だよね。でも、死にたくない……まだ、奏多のやりたいことも終わってないもん。それに、秋には陸の試合もある。時間が足りない……」

 こんな気持ち初めてだ。

 「だから精一杯生きるんだよ」

 空から降ってくるような声はわたしの心にすとんと落ちてきた。

 「うん……でも、意外と難しいね。精一杯生きるって、どういうことなのかな。わたしの過去も、変わってるみたいだし」

 もっと簡単だと思ってたんだけどな。

 「お前の考えや行動ひとつで変わることはあるんだ」

 そうなのかもしれない。

 奏多の計画書だって前はなかった。

 凛子とも喧嘩をしたままだった。

 陸の言葉にも悶々としたまま、お互い話すこともなかっただろう。


 「いいか? 大切なことを見落とすのは一瞬だ。お前が見ようとさえすれば、それが見えてくるはずだ」

 「わたしが……」

 繰り返したけれど鬼丸の声はもう降ってこなかった。

 無限に突き抜けるような空を見上げれば、そこにはやっぱりギラリとした太陽がわたしを見ていた。


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