【完】八月は、きみのかくしごと


 小走りで御門屋の前に着くと奏多の姿はなかった。

 わたしが遅くなったから帰ったのかもしれない。

 呼吸を整えて御門屋の入り口に立つ。

 渋い藍色ののれんがパタパタと風になびく。

 到底ひとりでは鬼のように怖い顔をしたトキさんと話すことは無理だ。なにを言われるか想像もつかない。

 わたしはやっぱり苦手だ。

 うろたえていると御門屋のなかから話し声が聞こえてくる。

 トキさんのつっけんどんな声と奏多の声。

 わたしは意を決して入り口ののれんをくぐる。


 「お。遅かったじゃん」

 「ごめん……」

 和菓子が並ぶショーケースの隣に丸椅子がある。

 そこに座る奏多が真っ先に気づいてくれたおかげでひとまず胸を撫で下ろした。

 「水野さんとこの娘じゃないか」

 奏多の隣には同じようにトキさんが座っていた。


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