【完】八月は、きみのかくしごと


 「あの、トキさん、こんにちは」

 くぼんだ目がジロリとこちらを向く。

 緊張のせいか肩に変な力が入った。

 「あんたは母さん似だね」

 「え?」

 「髪の毛が長かったらそっくりだ。あんたの母さんはよくここに来てくれたのさ。ワシの話相手になってくれてね」

 「お母さんが……」

 わたしは呆然と繰り返した。
 
 知らなかった。聞いたこともなかった。

 「あんたも座るかい? 待ってな。椅子を持ってくるから」

 「……わたしはここで大丈夫です」

 トキさんは聞こえていないのか自宅へと続く部屋に入っていった。


 「なんで先に入っちゃったの?」

 トキさんの姿が完全に見えなくなってから奏多に聞いた。

 「店の前にいたらなかに入れって声かけられてさ。熱中症で倒れられても迷惑だって」

 クスっと奏多は笑った。


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