【完】八月は、きみのかくしごと


 「嫌いなんじゃないさ。見てると、昔を思い出して憎たらしくなるんだよ」

 トキさんは鬼のように怖い顔をさらに険しくした。

 「あんたらは知らなくて当然だがな、昔、影森でちょっとした事件が起きてね」

 「事件?」

 「そうさ。男子高校生が自殺したんじゃ。影森の川に飛び込んでな」

 自殺ーーー。

 淡々とした口調でトキさんは言うけれど、わたしの頭のなかにその言葉が響いた。

 「いじめられていたのさ。今じゃニュースなんかでも度々見かけるが、昔は今ほど自ら命を絶つ子供なんかおらんかったわ」

 奏多はじっと耳を傾けている。

 「いじめられる子にも問題があるなんて聞くけどさ、その子はね、いじめられるような子じゃなかった。誰にでも元気よく挨拶していて、優しくて……身体も心も強い子じゃった」

 強い子。

 トモちゃんの話を思い出した。

< 114 / 185 >

この作品をシェア

pagetop