【完】八月は、きみのかくしごと
「嫌いなんじゃないさ。見てると、昔を思い出して憎たらしくなるんだよ」
トキさんは鬼のように怖い顔をさらに険しくした。
「あんたらは知らなくて当然だがな、昔、影森でちょっとした事件が起きてね」
「事件?」
「そうさ。男子高校生が自殺したんじゃ。影森の川に飛び込んでな」
自殺ーーー。
淡々とした口調でトキさんは言うけれど、わたしの頭のなかにその言葉が響いた。
「いじめられていたのさ。今じゃニュースなんかでも度々見かけるが、昔は今ほど自ら命を絶つ子供なんかおらんかったわ」
奏多はじっと耳を傾けている。
「いじめられる子にも問題があるなんて聞くけどさ、その子はね、いじめられるような子じゃなかった。誰にでも元気よく挨拶していて、優しくて……身体も心も強い子じゃった」
強い子。
トモちゃんの話を思い出した。