【完】八月は、きみのかくしごと
「妬みや僻み……そういう醜い感情を抱いてもいいさ。人間だもんな。でも、だからといってそれを誰かにぶつけるのは間違っているだろ? 許せないね」
トキさんは怒りを圧し殺すように言った。
「ちょうどあんたらと同じ年の頃さ。あんたらを見ていると、あの子は諦める以外の方法が見つからなかったのかって思うんだよ。それが、悔しい……」
皺だらけの目元が悲しそうに歪んだ。
苦しくて、もがいて、諦める以外の方法が見つからない。
わたしは、そこまで迷って悩んだことはないだろう。
『お前たちはいいな。悩みごとのひとつもなさそうで。ヘラヘラと毎日笑っておるのぉ』
トキさんはただ単に意地悪を言ってきたんじゃないんだ。
今を生きるわたし達がトキさんにはそう見えたのかな。
現に、わたしは悩みごとなんてなかった。
退屈な毎日をどれだけ傷つかずに生きていけるか。
わたしは、ものすごく、ちっぽけだ。