【完】八月は、きみのかくしごと


 「まぁ、ワシはなんにも出来なかったよ。その上、負けるんじゃないよと声をかけて見送ったんだからね。その夜さ。あの子が死んだのは」

 カラカラに掠れた声が痛々しかった。

 トキさんは目頭を押さえる。

 「戦っていたのはあの子なのにね」

 「あの、トキさん。もしかして、その男の子って」

 奏多はゆっくりと口を開いた。

 わたしも奏多と同じことを思っていると思う。

 トキさんは重い腰を上げて立ち上がりレジの方へと向かう。

 「息子さ」

 手にした写真立てを愛しそうに見つめる。

 「時間を無駄にしたくないって、毎日、練習していてね。逃げたら負けだって、言い聞かせていたよ」

 柔道着に身を包んだ坊主頭の少年。


 じっとカメラを見つめている凛々しいその瞳に、生命を感じた。


 逃げたら、負け。わたしは心のなかで呟いた。



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