【完】八月は、きみのかくしごと
「あっ……」
わたしは咄嗟に声を出した。
やっぱりトモちゃんが話してくれた時正さんのことなんじゃないかな。
でもわたしが思わず声をあげたのはそれ以外にも理由があったからだ。
「なんだい? 誰かに似ているかい?」
「いえ……なんでもないです」
わたしはトキさんに首を振りつつもう一度その写真を見る。
じっくりと見た。
トキさんの言うように誰かに似ている。
というか、どこかで見覚えのある顔だった。
強い意思を燃やす瞳。
「息子を思い出すと相手の子が憎くてたまらなくてね。その子、大学時代に海で溺れて死にかけたそうだよ。いっそのこと、そのまま死んでしまえばよかったと思ったね」
死にかけ、わたしと同じだと思った。
嫌悪を露にしたトキさんがここにはいない憎い相手を責める。その憎しみがトキさんを蝕んでしまいそうなくらい、怖い顔をしている。
けど、写真立てを握る老いた手がカタカタと震えていた。
「……奇跡的に助かったそうだがね」
ポツリとおとされた声はどこか安堵したようにも聞こえた。
「どういう風の吹き回しか知らんけど、謝りに来たよ。そこののれんの下で頭をこすりつけてね」
「あの、そのひとは、なんて言ったんですか?」
その言葉はわたしの口から零れた。
言ってしまってからわたしはハッとして慌てて違う言葉を探したけれど、トキさんの方が先に口を開いた。