【完】八月は、きみのかくしごと


 ◇

 御門屋を出て家に着くとすでに夕飯が出来ていた。

 換気せんがくるくる回っていて揚げ物の香りがする。

 「おかえり。またそーめんですまんな」

 お父さんが苦笑いをする。

 テーブルに並ぶのはわたしが昼に食べなかったそーめんだ。エビの天ぷらも添えられている。

 「そーめん好きだからいいよ。涼しいし」

 「よかった。それ、御門屋のまんじゅうじゃないか」

 わたしは茶色い紙袋をひょいとテーブルに置いた。

 「トキさんのところに行ってきたよ。奏多と」

 帰り際、持っていきなとおまんじゅうを何個か分けてくれたのだ。

 「今までずっとかい? 珍しいね」

 「……うん」

 「愚痴を聞かされただろう」

 お父さんが笑った気配がした。

 そこに嬉しさが含まれているのが伝わってくる。

 「トキさんね、わたしが思ってたより、鬼ババじゃなかった」

 御門屋を出るときに見たトキさんの穏やかなくぼんだ目を思い出した。

 またおいでと言われて、わたしも奏多も驚いたのだ。

 
 返事をしたのはわたしだけだったけれど。



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