【完】八月は、きみのかくしごと


 「母さんも同じこと言ってたよ。時々、御門屋に行ってはトキさんと話していたからね」

 それはわたしもさっきトキさんに聞いて初めて知ったことだった。

 改めて、わたしは母さんのことをあまり知らないんじゃないかと思った。

 でもそれはわたしが母さんを避けていたから。

 口うるさく言われるくらいなら必要以上に話さない方がいい。母さんに対してわたしだけにしか見えない壁を造ることで、わたしは自分の居心地の良さを保つ。

 あの頃わたしが身に付けたしょうもない知識。


 「ひとつもらおうかな。母さんも、大好きだからね」

 お父さんは手にしたおまんじゅうを母さんの仏壇に添えた。

 やっとのことで見つけた盆提灯は母さんが迷わないようにしっかりと火を灯している。まるで道標だ。

 わたしはなにも言わずにお父さんの背中を見ていた。

 わたしが下手になにか言えば、お父さんを傷つけ、悲しませてしまいそうで怖かった。


 せめてお父さんの隣に座る。

 
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