【完】八月は、きみのかくしごと


 母さんの写真を見ているとやっぱり母さんのことが浮かんでくる。

 ただいまと帰ると、おかえりと微笑む母さんがいた頃。


 その笑顔が大好きだった。


 柔らかくて、お日様のように温かい。

 なぜかとても安心した気持ちに包まれるんだ。

 そんな優しい気持ちをお父さんと一緒に共有したい。

 なのに今は出来なくて苦しい。

 わたしの心の奥には母さんという場所があって、本当はそこはとても温かいのに、触れられるとヒリヒリと痛くて悲鳴をあげる。

 だから蓋をして開けないようにしてきた。

 本当は思い出というのは閉じ込めておくべきものじゃないのに。

 それでも、今のわたしにはそうするしかなかった。


 じゃなきゃ、優しい頃の母さんまで嫌いになってしまいそうだった。





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