【完】八月は、きみのかくしごと
確かにまだ罪を見つることは出来ていない。
けど凛子がそれを知っているわけもないからわたしは首を傾げる。
なにが心配だというのか。
「大丈夫だよ。通り魔の犯人ならまだ捕まってないみたいだけど。駅にも行ってないしね。心配してくれてありがとう」
旅行に行く前に凛子が心配していたことだ。
それのことだろうと思って、わたしは明るい声を出して言った。
でも、凛子は弱々しく首を振る。通り魔のことには一切に触れてこない。
「……なっちゃん。奏多くんと、話した?」
か細い声で躊躇いがちに聞いてくる。
「奏多と? なんの話?」
「あ……えっと……ううん、やっぱりいい」
「なに? 気になるじゃん」
凛子はどこに視線を定めたらいいかわからずに、おどおどと目を泳がせる。
その姿はこないだ会った陸のようだ。
だいたい、あの凛子が両親にわがままを言ってまで早く帰ってくるなんて。ましてや家族旅行なのに。
それは凛子にとってよほど勇気がいることだったと思う。
ーーーどうしてそこまで?