【完】八月は、きみのかくしごと
「北海道……」
わたしは息を吹き返した蝉のようにようやく口を開いて繰り返した。
そこはとても遠い土地というのがすぐにわかる。
走ったって、自転車だって、すぐには辿り着けない。
そんなこと、頭では理解してる。でも、心がついていかない。
どうして長野じゃないのだろうと思った。
せめて長野なら望みが絶たれたような気持ちにならなかったかもしれない。
長野なら、奏多が夏休みに行けばいい。
すぐに帰ってこれる距離なんだから、そうすればいいよ。それなら、一週間でもいいんじゃないかな。
身勝手な考えを必死に組み立てる。
「うん。遠いよな」
遠い。とても。遠すぎる。
今まで通りには会えない。
明日会おうと思えばいつでも会える距離じゃない。
声すら、すぐに聞けない。
「俺が一番やりたかったことは、少しでもナツと思い出を作ることだったんだ」
八月一日。わたしの時間は戻った。
『今年はどうしてもやりたいことがあるんだ。だから付き合って、ナツ』
奏多は言った。凛子でも陸でもなくわたしに。