【完】八月は、きみのかくしごと
「やだ……さよならなんてしない。明日もわたしは、奏多に会う……!」
わたしは悲鳴染みた声で叫んだ。
こらえきれずに涙が零れても、夜祭りに向かう人々が不思議そうにこっちを見ているのも構わず叫んだ。
「明後日も、その次の日も、わたしは奏多に会う。ずっとそうだったもん。だから、大人に、なってもっ……」
ずっと奏多といる。奏多といたいよ。
これが永遠の別れじゃないことなんてわかってる。
それでも、夏が終わったとき、わたしの隣に奏多はいない。もう二度と会えないのかもしれないと思ってしまうほど、苦しい。
みっともない嗚咽を上げながらわたしは叫ぶ。
奏多と過ごす時間は当たり前にあったはずなんだ。
わたし達は変わらない。変わることなんてない。
なんの迷いもなくそう思っていた。
けれど、本当は変わらないことの方がずっと難しい。
「ナツ、聞いて? 俺はナツと一緒にいたい。ナツと話して、ナツの隣にいて、ナツと一緒に大人になりたい」
凪いだ海のように静かな声だった。
でも奏多の肩は小刻みに震えている。
同じ気持ちだった。わたしも。