【完】八月は、きみのかくしごと
このまま奏多といたい。それだけでいい。
奏多が笑うとわたしも笑う。
奏多が悩むなら一緒に悩む。
奏多が悲しいときはきっとわたしも悲しい。
けど、そっとその手を握りたい。出来るだけ優しく。
色んな奏多の顔を見ていたい。
そうやって奏多と生きていけたら。
涙で奏多の顔が見えなくなる。
わたしの世界はいつも奏多でいっぱいだった。
ーーーわたしは、こんなにも奏多が好きだ
「ナツ。俺たちはさよならしなきゃいけないんだよ」
奏多の声が大きく震えていた。
痛みに耐えるように唇を噛み締めやっぱり無理に笑ってみせる。
「でも、俺とナツには思い出があるから。だから……」
奏多の瞳から涙が落ちていった。
その瞬間、堰を切ったように思い出が溢れ出す。
まるで宝物のような思い出。
裏山にある石段から見る影森の町並み。
トモちゃんのお店のさくらんぼの乗ったクリームソーダ。
七草寺の本殿。凛子と話しをしたよね。
トキさんのいる御門屋のおまんじゅうも美味しかった。
奏多と一緒に食べたから美味しかった。
陸の背中を押した空き地も。
この羊ヶ丘公園のベンチも。肩と肩がぶつかりそうになる。その度にわたしの鼓動は音をたてる。
わたしがホントはドキドキしてたって、奏多は知ってるかな。
もっと、もっとたくさんある。
この影森の町のどこかに、もっと。