【完】八月は、きみのかくしごと


 「手紙書くよ」

 電話でもメールでもない。奏多が選ぶのは手紙だ。

 「待ってる……」

 わたしも書くよ、手紙。

 でも、声が聞きたくてたまらなくなったときは、電話をしてもいいかな。

 「ナツ」

 柔らかい声だった。

 「夏休みはまだ終わってないよ。思い出、作ろう。最後までさ」

 少し先に立つ奏多が頬の涙を払う。
 
 その手をこっちに伸ばしてくれる。

 わたしがここから一歩踏み出すのを奏多が待っていてくれる。いつもそうだったね。ずっと変わらずに。


 その手の呼ぶ方へわたしは歩き出す。

 いつだってそばにいてくれた奏多の優しい手を、わたしは握りたい。
 
 

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