【完】八月は、きみのかくしごと


 「お父さん、お父さん!」

 いてもたってもいられずに、転がるように階段を降りると居間のドアを勢いよく開けた。

 「なんだぁ? 慌てて」

 テレビを見ていたお父さんのビックリした顔と目が合った。

 かりん糖みたいに日焼けをしたお父さんは、配達の仕事から帰ってきたのか、真ん丸な頬っぺたが汗でてかてかと光っていた。

 「ああ……よかった。お父さんだ……」

 涙ぐむわたしに首を傾げる。

 「んぅ? どうしたんだ?」

 自分でもおかしなことを言っているとわかっていた。

 だけど、お父さんの顔を見たら安心して涙が出そうになる。


 「朝起こそうと思ったんだけど夏休みだし、声かけなかったんだよ」

 そっか。わたしは昼過ぎまで寝てたんだ。

 「昨日もずっと昼まで寝てただろう?」

 「え? うん。ごめんね」

 そうだ。夏休みで学校はないし、早起きしなくていいやって、ダラダラしていたっけ。

 ついでに口うるさい母さんもいないのだからって思っていた。


 過去の自分がその日なにをしていたか、意外とすんなり思い出せないものだ。

 しかも、わたしのように特にこれといったこともなく過ごしていたのなら、なおさら。

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